統計的内容の光と影(2024年3月ver.)

教科・単元、キーワード
  • 算数・数学
  • 総合的な学習・探究の時間
  • 探究力・活用力
  • ICT(情報通信技術)
  • SSH(スーパーサイエンスハイスクール)
校種・学年
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校種間連携
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概要

現在はVUCA (「Volatility:変動性」,「Uncertainty:不確実性」,「Complexity:複雑性」,「Ambiguity:曖昧性」)の時代といわれ,統計・データサイエンスが世の中における多くの分野,場面で重要視されています。現行学習指導要領が2020年より小学校から段階的に実施され,2022年度から高等学校でも実施され学年進行で2024年度で完全実施となります。幼稚園教育要領で明示された「幼児期の終わりまでに育って欲しい姿」(健康な心と体,自立性,協同性・規範意識の芽生え,社会生活との関わり,思考力の芽生え,自然との関わり・生命尊重,数量・図形,文字等への関心・感覚,言葉による伝え合い,豊かな感性と表現)を踏まえた指導を工夫することによって,小学校低学年教育へと発展し,幼小中高の学校間接続を考えて指導していくことの大事さが強調されています。
日本の初等中等教育における統計教育を振り返ってみましょう。明治44(1911)年の(半期用)「高等小学読本巻三」に「統計」が登場したことから始まり,昭和10(1935)年から年次進行で刊行された伝説の緑表紙教科書「尋常小学算術」に多くの統計教材が盛り込まれた時期から本格化しました。次いで,第二次世界大戦後の学習指導要領下での学校教育で発展し,学習内容的には昭和43-45(1968-1970)年度告示のものでは,高等学校段階で「仮説検定」も含む程度になっていました。しかし,その後は減少し,平成10(1998)年度告示の中学校学習指導要領では数学科から統計の内容が消えることとなり衰退しました。その後は増加し,次期高等学習指導要領の数学科では,再び「仮説検定の方法」まで含むようになりました。学習指導要領上では書かれていても,実際には十分な実践的な学習活動を伴わない統計教育しかされない時代を経てきています。
現在,生徒が実際にデータを活用し,意志決定につなげる統計教育の充実の期待は大きいのですが,実際の教育現場で実効性のある試みはまだ多くなく,本学附属学校の試みには大きな期待が寄せられていると考えております。大学でも「データサイエンス学科」などが各所に設置されたり,数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムから文系・理系に関わらずすべての学生に身に付けてほしい「数理・データサイエンス・AI (リテラシーレベル)モデルカリキュラム~データ思考の涵養~」の案が作成されたりし,生徒,学生に数学,特に統計的手法,データの活用を身に付けてもらうための教育課程が考えられています。

本部会ではこれまで,「発達段階に応じること」「算数・数学科らしいこと」をキーワードに,切り口を少しずつ変えながら小中高における統計の授業づくりについて検討してきました。例えば,統計的探究的プロセス(PPDACサイクル)を通した学習指導,統計的問題解決の方法知,統計教育における批判的思考,などです。
一方で,統計を用いることには注意すべき点が多くあります。一般に,統計を活用して問題をよりよく解決する際,誤って用いてしまうことによって,望ましくない判断や意思決定が行われる可能性もあります。例えば,外れ値の存在に気付かずに平均値を代表値として用いてしまうことや,過誤等に知らないで仮説検定の結果を信じ切ってしまうことなどが典型例といえるでしょう。児童生徒が統計の長所やよさだけではなく,その短所や限界,さらには用いるときの注意点について理解しておく必要があるのではないでしょうか。それにより,統計的内容についての理解を深めることができるような,算数・数学科らしい統計の授業づくりが期待できるのではないかと考えました。
そこで今年度は,統計を正しく活用することのできる児童生徒の育成に向けて,「統計的内容の光と影」に焦点を当てることにしました。「光」と「影」のイメージは以下のとおりです。

●光の部分 =よさ
こういうときに使うとよい! 正しく使えている! 正しい使い方
●影の部分 =注意点
こういうときは使ったらまずい! 誤った使い方・読み取り方 技能の難しさ

月に一度の部会では,メンバーで意見交換をして,授業づくりについてのイメージを膨らませていきました。以下に,これまでの部会での主な意見を掲載しておきます。

【小学校】
統計的な問題解決に初めて出合う。まずは内容を教えてからスタートする。他教科とのコラボや総合などでも,いろいろな問題解決ができる。中高に比べ,小学校は教科横断的なカリマネがしやすい。その中で方法知を学ぶこともできる。

【中学校】
「平均値ってこういう意味だよね」というのは内容知。「平均値ってこんなときに使えるよね(光の部分 よさ)」「こういうときには使えないよね(影の部分 危険性)」ということが方法知といえる。教師側に,統計的知識の「(社会的な)使いどころ」のストックがあれば,内容の導入時から,問題解決を通して必要性を指導できる。

【高校】
数Ⅰ「データの分析」では相関係数の式,数B「統計的な推測」では正規分布の式などが天下り的に降りてくる。指導要領解説の中にも「理論的な取扱いには深入りせずに…」という文言があり,そう割り切らないと説明できない内容も少なくない。説明に飛躍が生じることに,授業をしていて葛藤がある。問題などを通して,意味や有用性を理解していくことが大切になってくると感じる。

【全体】
・今年度の提案の柱を,「例えば中央値,箱ひげ図,相関係数などの「統計的な知識」の光の部分と影の部分に配慮をして,使える学習指導をしていきましょう!」にしたい。
・データ分析に責任を持つ意識を児童・生徒にもたせたい。データ分析には落とし穴がある。だから批判的思考が大事で,そのために光と影の両方の理解が重要である。算数・数学やそれ以外の時間において,具体的な活動を通して指導しないと,児童生徒は腹落ちしない。
・他の数学と違って「こうだ!」と確定的な結論を言いにくいのが統計。また,附属高校はSSH指定校であり,課題研究において,生徒がデータを活用する場面も多い。その際に,数学での学びが生かし,適切にデータを活用できているかを注視し,その都度,指導をいれることが数学科の役割の1つでもあると考える。

その上で,「統計的内容の『光』と『影』」の一覧表を仮作成し,例年3月に開催しているシンポジウムの学校種別分科会を設定し,参加者の方と議論することを通して最新版に更新し,「2024年3月版」とすることにしました。

令和6年3月17日に「統計教育シンポジウム」の第7回をZoomによるオンライン形式で実施しました。主題を「学校の算数・数学で学ぶ統計の“光と影”~学びにくさ/教えにくさについて語ろう~」とし,小・中学校の実践発表と高校の情報提供の後,例年の講演ではなく,学校種別分科会をブレイクアウトルームで実施することにしました。申し込みは,全国の小学校,中学校,高等学校,大学,教育行政,塾などの教育関係者や民間企業関係者などから120件あり,当日の参加は70名でした。

第7回統計教育シンポジウム
https://www.ocha.ac.jp/event/d014121.html
日時  令和6年3月17日(日)10:00~12:20
主催  お茶の水女子大学附属学校園 連携研究算数・数学部会
共催  お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所 保育・教育実践研究部門
主題  「学校の算数・数学で学ぶ統計の“光と影”
~学びにくさ/教えにくさについて語ろう~」
講師  なし(講演ではなく,対話型の学校種別分科会を実施)
発表者 岡田紘子(お茶の水女子大学附属小学校)
藤原大樹(お茶の水女子大学附属中学校)
三橋一行(お茶の水女子大学附属高等学校)
参加費 無料(Zoomによるオンライン開催)

以下に,各学校種から発表の主題,当日資料のリンク,概要を示します。

○小学校実践研究発表(附属小学校 岡田紘子)
主題 「データを活用した問題解決の学習 〜生活場面の問題を解決するために〜」
発表資料 https://kyozai-db.fz.ocha.ac.jp/search/detail/834

○中学校実践研究発表(附属中学校 藤原大樹)
主題 「生徒会ルールをよりよくしよう!(中2 箱ひげ図)」
発表資料 https://kyozai-db.fz.ocha.ac.jp/search/detail/838

○高等学校情報提供(附属高等学校 三橋一行)
主題 「数学B『統計的な推測』授業での難所と提案」
発表資料 https://kyozai-db.fz.ocha.ac.jp/search/detail/835

コンテンツ担当者・著者

お茶の水女子大学附属中学校 藤原大樹(連携研究算数・数学部会)

論文・教材本文
統計的内容の光と影 第7回統計教育シンポジウムを踏まえた最新版
関連情報
第7回統計教育シンポジウム

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  • 登録日時 2024-03-26 14:08:42
  • 更新日時 2024-03-26 14:08:42
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