「誰かのためのデザイン」~自分ごとになる表現のかたち~

教科・単元、キーワード
  • 芸術・美術・音楽・図画工作
校種・学年
  • 中学校
  • 中2
校種間連携
概要

 本題材は、中学校第2学年の表現の活動、工芸分野の作品制作である。本題材では、扱う材料として、木材(桂材)を使用することとする。
工芸作品は、材料そのものの質感を楽しみ、材料が持つ性質を、生徒自身が制作中に手で味わいながら理解し、学習していくことが大切である。特に工芸作品の制作においては、材料への理解と共に、完成した作品の使い手を意識してデザインを考えることが重要である。作り手である生徒たちは、使い手のことを考えた目的や機能性(良さ)、造形性(美しさ)を考えて作品制作することが課題となる。だが、目の前の生徒たちの学習する姿を踏まえると、制作している作品が目的や機能を果たせることであったり、美しい形とすることを目指したりすると、どうしても技術的な側面に価値を置く傾向が強まることにつながっていくのである。これは、思春期にある中学2年生の生徒たちにとって、見た目に明らかに表れてくる表現の活動においては、完成に至るまでの時間も、鑑賞時においても周囲の目を気にした活動になることが主立ってしまうからである。発達段階を踏まえれば、至極当然の姿ではあるものの、美術科としては常に生徒たちの美術の学習への向き合い方を考える上で課題意識を持って向き合うべき現実的な姿である。
 しかし、これまでに実践した「身近な人を見つめて」と題した他者を描いた作品の相互作品鑑賞の活動において、「この作品を描いた本人に見せたいと思うか?」と問われると、生徒たちからは「上手く描けなかったけれど相手を想って描いたことを伝えたいから見せたいと思う。」といった答えが何人もの生徒たちから返ってきた。つまり生徒たちにとって、作品の向こう側にある相手の存在によって、制作した作品に技能的側面以上の価値がそれぞれの生徒自身に生まれていたといえる。
そこで本題材は、工芸作品の制作を通して生徒たちに使い手となる相手の存在を強く意識させたいと考え、「誰かのためのデザイン」と題している。表現の活動に至る大前提として、相手を想った作品制作にすることで、使い手のことを考えたデザインが生まれ、生徒たちそれぞれの明確な目的のもとに、主題が見出されることになる。また、副題にある「自分ごと」とは、作品制作する生徒自身と、その相手との関係の中に生まれる表現を主題にすることで、美術科の活動が授業時のことだけでなく、生徒の日常から生まれる発想を生きる実感に伴う表現とすることを重要なねらいとしたいという考えから付した言葉である。これまでに実践した前述のような題材を通し、生徒たち一人ひとりにとっての「誰かのために」を設定することで、技能的側面に偏らない、唯一無二の価値を作品の中に見出させていきたいとした。相手を意識し、自分が制作する作品に必要だと思うことを能動的に見出すことで、制作の過程での振り返りにも深い意味を持たせることができると考えた。
本題材の学習で、生徒たちが自ら探究的に学習する上で特に大切なのは、今日行った活動が、自分の目標としているところに見合った成果を遂げられているかを冷静に振り返ることができる時間にある。特に第2学年以上の授業時間数は週1時間ということもあり、授業毎に活動内容やその成果を振り返り、次回の制作につなげることが特に重要になる。
生徒たちは、授業時間の振り返りを授業ワークシートへまとめ、それをもとに次の制作を充実させるべく探究的な学習を要する。作品制作には数か月という長い期間をかけて向き合うものの、常に様々な課題に向き合う生徒たちにとって、週1時間の制作という限られた時間数で向き合うには相当な工夫を要するため、毎授業の活動や振り返りを意味あるものにするための教師側の題材設定の工夫も重要である。本題材のように「誰のために作品をつくるか」と設定することで、生徒が制作する上での主題創出にもつながるが、作品の向こうに思い浮かべる他者を意識することは、「この材料はこんなことができるから、あのデザインにしてみよう」や、「このやり方は難しそうだから方法を変えてみよう」など、探究的な学習にもつながる。生徒たちが自分自身で設定した目標のために発展的に学習し、実感を伴った振り返りが叶うことで、生徒たちが日常を生きるストーリーにつながった、“自分ごと”に落ちていく表現になっていくと考える。

コンテンツ担当者・著者

お茶の水女子大学附属中学校 桐山瞭子

論文・教材本文
R3公開研 美術科提案授業実践報告

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  • 登録日時 2021-10-22 13:02:09
  • 更新日時 2022-11-07 14:53:39
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